ITものがたり短編集・目次

Book:”神業に乾杯!”

Contents: 

   ”第三編、1”  ”第三編、2


Book:”ニホン、信じられないネ”

Contents: 

   ”第二編、1”  ”第二編、2”  ”第二編、3

   ”第二編、4”  ”第二編、最終回"


Book:”自然の波動”

Contents: 

   ”第一編、1”  ”第一編、2”  ”第一編、3

   ”第一編、4”  ”第一編、5”  ”第一編、6

   ”第一編、7”  ”第一編、最終回

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神業に乾杯! <第三編、2>

「しょうもない索引やなぁ。」
とミスゴ(ミスター・ゴッドの短縮、ミスドみたい)さんがいつものようにサンのワークステーションの前で呟く。

まだ、UNIX(OSの名称)やC言語が目新しく本屋にも並んでいる本が1、2冊しかない頃であった。給料のほとんどを本と酒の購入で使い果たしてしまうミスゴさんから見ると索引の出来具合がその本の評価にも大きく関係している。
「英語の原本はこんなに索引があるのに、日本語訳はこんだけやでぇ。なんじゃい、これ?」
「ねぇねぇ、誰か索引作るプログラムを作ってくれないかなぁ、ゴロにゃあん。」
とミスゴさんのお願いの猫撫で声が聞こえる。
「ほんま、アメリカって凄いでぇ。このマニュアルの構成をみてみぃ。日本人だったら、プログラム書いてから紙に書くけど、いや、書けばまだいい方だけど。この構成っていったら、凄く論理的にできてるやん。」
やっつけ仕事が嫌いなミスドさんらしい発言であった。

そして、そんなミスドさんのワークステーションのデスク回りには、30cm以上はある長髪が何本も散らばっていた。そう、ミスドさんはお風呂に入るのが嫌いで、髪の毛がよく抜けることで有名な人だった。

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神業に乾杯! <第三編、1>

「ほぼ完璧です。」
と、少々はにかみながら、しかし眼鏡の端を直しながら、プロジェクト・リーダーの
「進み具合はどうや?」
との問いに、神山さんが答えた。

みんなは神山さんのことを「ミスター・ゴッド(Mr. God)」と呼んでいる。天才肌で、その論理力に敬意を表して付けられた愛称である。
ただ、みんなはわかっていた。ミスター・ゴッドの”ほぼ完璧”という言葉は、”これからスタートする”という意味なのを。
しかし、さらにわかっていた。スタートしたら一気にソフトを書き上げてしまうことも。
その早さはまさにミスター・ゴッドだ。

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ニホン、信じられないネ <第二編、最終回>

「日本人のソフトエンジニア、口だけでプログラム作らないね。」
と言いながら、アドちゃんはサッサッサァーとC言語でプログラムを書いてしまう。理屈も一流だが、それをすぐ具現化するところがさらに凄い。日本人のように設計する人が偉くて、プログラムを書く人は下だというようなハイアラーキな考え方はない。UNIX(ユニックス: OSの名称)育ちのアドちゃんは、すべてに水平思考であり、行動する学者さんである。

一番得意なのは、通信ソフトなのだが、私は一度だけGUI(グラフィカル・ユーザ・インタフェース)の開発を頼んだことがある。すると、2日後にはいかにも海外パッケージ製品のようなカッコイイGUIを作って見せてくれた。
私は、
「かなわん!」
と、心の中で呟いたのを覚えている。

日本のソフトウェア業界のように業務用ソフトを大人数で分業制で作ってゆくというよりは、コアな部分の数学的理論から構築して、そのプロトタイプも自分でドンドン開発して実証するという正にアーキテクトである。
そんな彼もソフトウェア・ビジネスというよりも、コンピュータ創世記の自由な雰囲気を求めて、シリコンバレーへと旅立った。そこで、MBAを取得して新しい台湾人の奥さんと結婚をして幸せに暮らしている。ただ、怒るときも喜ぶときもオーバーに表現するところは、今も変わらないようだ。

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ニホン、信じられないネ (第二編、4)

「どうして?どうして?」
今日も会社に来るなり。???を連発しているアドちゃんがいた。ラテン系なので、様子を見ながら探りを入れる必要はなく、ストレートに
「何があったんだい。」
「よくわからないんだよぅ。」
アドちゃん、実は歴とした奥さんがいるのですが、朝食のことで一悶着あったらしい。結婚してまだ一年余りで専業主婦の奥さんは、アドちゃんのために一生懸命に食事を作るらしい。今朝の朝食でも旅館の朝食みたいにたくさんのお皿が並び、あまり胃の調子がよくなかったアドちゃんはいくつか残したということだった。折角、朝早くから起きて時間と愛情をかけて作った食事を残されて奥さんとしては怒り心頭状態だったということだ。そこに追い打ちをかけるようなアドちゃんの一言、
「朝食なんて、コーンフレークでいいんだよ。」
本音であった。
理系的思考の彼にとっては、朝食作りに時間を割いてゴタゴタ言われるより、栄養の
バランスが計算済みで牛乳をかけるだけのコーンフレークで充分だった。

私は、
「アドちゃん、素敵な奥さんじゃないか。」
とだけ言っておいた。

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ニホン、信じられないネ (第二編、3)

「アドちゃん、ご機嫌いいじゃない。」
「わかる?井原さん。」
「当たり前だよ、アドちゃん、ラテン系でとってもわかりやすいからね。」
アドちゃんの話しによると、朝の通勤電車の中で、隣に座っていた若い女性がコンピュータの本を読んでいたのが理由だった。もちろん、ノウハウ本ではなく、コンピュータ工学的な本である。

アドちゃん曰く
「ニホンの女の人は、電車の中で雑誌は読むけど、普通の本を読んでいるのを見たことないね。」
ということになる。インテリの(間違いない)、綺麗な(定かでない)女性に朝から会えて、とてもやはりアジア系の女性は最高だという気分のようである。
そもそも、ブラジルの大学を出たアドちゃんが日本に来ようと思った最初のきっかけは、中学時代、台湾の女性がペンパルだったことによるらしい。それ以来、アジア系女性への憧れに近い感情がずっと続いている。

第三者的に見ても、彼の体型がもっとスマートで服装がピシッとしていたら、あのインテリジェンス、話上手ならばモテモテだと思う。なんと言っても、アドちゃん、日本語の駄洒落をきちんと使いこなせるのだ。そう、少なくとも私よりは間違いなくウケている。

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ニホン、信じられないネ (第二編、2)

「もう信じられないよぉ」
と会社に着くなり、大きく声に語気を荒げて私に泣きついてきた。
アドちゃん(アドリアーノの呼び名)は昨夜、会社の帰りに本屋に寄り店を出ようとしたときに店員に呼び止められ、万引きしたのではないかと疑われたらしい。
アドちゃん、ブラジルのサンパウロ大学でコンピュータサイエンスを習得した優秀なインテリなのだが、見た目が・・・・・なのです。太っちょの上、ワイシャツがスラックスに収まり切らずに、いつも外にはみ出したまま、それも日本人から見るとかなりだらしなく見える。それは明らかに西海岸のカルチャーとも違って見える。そう、どちらかと言うとその当時メディアに盛んに取り上げられた東京下町や埼玉の町工場で肉体労働者として働くイラン人という感じがピタリなのです。そう、アドちゃんは、本屋でイラン人に間違えられたのでした。
それはもう、アーキテクトとしてのプライド高い彼の心を痛く傷つけました。どう考えてもきちんとした証拠もなく犯人扱いした店員に問題がある訳だし、日本人の単なる驕りであった。

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ニホン、信じられないネ (第二編、1)

「井原さん、すみません。」
大柄な体格のアドリアーノが畳に頭をつけて土下座をした。正直、驚いた。外国人に土下座をされるとは。ちなみに私は30年何年間したことがない。いや、これからもしないだろう。
ここは会社の中である。華道や書道のサークルのために用意された畳の部屋で、うちの部署は部長の趣味でそこをウィークリーミーティングに使っている。

アドリアーノはブラジル出身の優秀なソフトウェア・アーキテクトである。ただ、会社での
職級は”プログラマ”である。そこがまた彼のご立腹の要因の一つでもある。しかし、それは彼の不満の数万分の一に過ぎない。日本のソフトウェア業界すべてが彼にとっては宇宙ででも仕事をしているような気分なのだ。

日本に来て3年が経っているが、普段の生活はともかく、こと仕事のことでは理解できないことだらけのようだ。しかし、その根本はただ一つであるように私からは見える。”仕事に対する能力・実績と待遇・評価の乖離である。”

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自然の波動 (第一編、最終回)

最近、葉っぱの緑色にも違いがあることに気付くようになった。春の緑は葉自体がまだ柔らかいせいか、色がきめ細かい気がする。24ビット・カラーのコンピュータでは、R(赤色)G(緑色)B(青色)を各色8ビット階調とし,最大で1677万色を表現できる。でも色を表す言葉が、そんな膨大な数すべてにあるわけではない。何となく、昔の人は花の色を区別するために色に名前を付けたのではないかと思ったりもする。
「8ビット、そんなことどうでもいい。そう、今は春なんだ。」
と呟く。

康平は無事、大学に合格し、今、地元の海の上をサーフしている。西城さんからは、プロジェクトは相変わらずの忙しさだが、先週、プロジェクトリーダーが外資系にヘッドハンティングされ会社を辞めることが決定したので、このプロジェクト自体の継続が流動的との話しを聞いた。
しかし、そういう人づてに聞こえてくる話しは実際どうでもよかった。今、自分の耳を揺さぶっているのは、そう、自分の肉体や思考の波長とドンピシャの風や波の波長だけなのだから。

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自然の波動 (第一編、7)

帰りのバスは空いていた。一番後ろの席の窓側に座り目を閉じた。西城さんに話したことは本心だったが、自分自身にもう一度確認を求めてみた。本当の理由は何だろうかと。何かしっくりする言葉が見つからない妙な感覚が体中を走った。そのはずであった。答えは言葉の中にはなかった。というより言葉で表わせる論理的なものではなかった。このプロジェクトが始まる前までは確実に自分で感じられた感覚があった。

「それは何だろう?」

と再び自問してみた。

耳に吹き付けてくる強風、あるいはアンテナを研ぎ澄ますように微かに反応する微風、そしてその波動が脳に伝わり次の動作を意志決定する体のメカニズム。ウィンドサーフィンをしているときの快感であった。

大学時代から始めたウィンドサーフィン、地元の静岡で兄に教わりながら始めたのだが、それ以来自然と戯れることが自分の中で貴重な時間となって行った。

「そう言えば、ウィンドサーフィンの快感も言葉で説明できないなぁ。」

と強く思った。

ふとっ横に目をやると、月明かりがバスの窓ガラスに何かを映し出すように光を放っていた。

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